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更迭された田母神航空幕僚長の論文,APAグループ第一回「真の近現代史観」懸賞論文に提出され,最優秀藤誠志賞を受賞したという代物です。APAのホームページからダウンロードすることができるので,現物を読んだ人もいるようで,私も現物を読んでみました。 …率直に言って,これ論文なんですか? まず題目の「日本は侵略国家であったのか」に関連する議論,それは1ページ目の1段落目,たった13行で終わってしまっていて,その後は,最終の9ページ目まで延々と周縁の議論に終始しています。肝心の「日本は侵略国家であったのか」については最後にちょっと「我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣である」と書いているのですが,それまでに述べている内容とその結論とが全くつながりを持っていないのです。 そもそも,題目からすると,歴史学的な方法による論文なのかと思いたくなるのですが,引き合いに出している書物等の著者がユン・チアン、黄文雄、櫻井よしこ、岩間弘、秦郁彦、渡部昇一、福井義高と,歴史学者が非常に少なく(秦氏のみ),歴史研究的な意味合いも薄いので,政治的主張を述べるための論文と捉える方が良さそうです。 そうなると,この懸賞そのものが「真の近現代史観」と銘打ちながら,歴史研究を目的とするものではなく,実際には政治的主張のためのものでしかないのではないかという疑問を持たざるを得ません。 さらに,最終段落は田母神氏の思い込みだけで成り立っています。特に際だっているのは以下の部分です。 人は特別な思想を注入されない限りは自分の生まれた故郷や自分の生まれた国を自然に愛するものである。日本の場合は歴史的事実を丹念に見ていくだけでこの国が実施してきたことが素晴らしいことであることがわかる そもそも「人は…愛するものである」という理論は一般論なのでしょうか。「特別な思想を注入されない限り」と但し書きを付けていますが,自国あるいは故郷を愛する思想は「特別な思想」とは言えないでしょうか。 国というのは一つの共同体です。また故郷も,自治会であれ村であれ町であれ市であれ,結局のところ共同体に帰結するものです。ここで,共同体はその存続を図るため,成員に共同体を存続させるような思想を持たせようとします。それは「共同体を存続させる」という目的を持った特別な思想です。それすら注入されていない状態,すなわち全くの自然状態で,人は自分が生まれ落ちた共同体を何の前提もなく守るというのは,いったい何の理由があってのことでしょうか。 ある人がその所属する共同体を「愛する」とき,そこでは自己の利益と共同体の利益が合致していることになります。ここでは,「個人」と「共同体」が同化しており,個人の利益がその所属する共同体の利益へ投影されています。もし,それが共同体によって仕組まれているのであれば,共同体はそれによって共同体の利益を守ろうとしていることになります。 このように,「個人」と「共同体」とが同化するという「特別な」考え方があって初めて,人はその所属する共同体の利益を守ろうとするのであり,「自然にそうなる」のではありません。田母神氏は「人が自己の所属する共同体を愛する」ことを検証なしに前提としており,思い込みと言わざるを得ません。 さらに後半部分で「歴史的事実を丹念に見ていくだけで」と言っていますが,田母神氏は歴史的事実の表層の一部しか踏まえておらず,到底「歴史的事実を丹念に見て」いるとは言えず,歴史学の常識は踏まえていないのです。 田母神氏は論文中で旧帝大を例に挙げ,6番目の帝大と7番目の帝大がそれぞれ京城と台北に造られたという事実を以て「現地人の教育に力を入れた」としています。また,当該記述のすぐ後に「日本政府は朝鮮人も中国人も陸軍士官学校への入校を認めた」とは書いていますが,帝大の入学資格に関しては言及していません。 ここで,「丹念に見ていく」のならば,例えばその帝大にどのような人が進学し,どのような教育を受け,その後どのような進路を歩んだのかというような,より多くのデータを「見ていく」べきです。 その上で,そのデータを元にして「現地人の教育に力を入れた」かどうか判断するのならば,「歴史的事実を丹念に見て」いると言えるかも知れません(結局データ頼みになっているという点で,表層しか見ていないという批判はされるでしょうが)。 田母神氏はそのような調査を一切省き,「帝大が造られた」という事実だけを以て「現地人の教育に力を入れた」と結論付けています。これではデータと結論とに関連性が無く,データ自体は正しいのに結論が間違っているという,一見奇妙な現象を生み出す元となります。 これを「間違いのない論文」と評する人達は,以前話題になった,『ゲーム脳の恐怖』(NHK新書)の論法を支持する人達でなければなりません。何故なら,『ゲーム脳の恐怖』も,それが基づくデータそのものには全く間違いがないからです。 『ゲーム脳の恐怖』の著者(森昭雄)は,実験によって得られたデータを元にして,「ゲーム脳の人がゲームをしている時の脳波の動きが痴呆者のそれに似ている」ので「ゲーム脳」が存在すると主張し,「キレる子ども」と関連づけたため,山本弘氏などの批判を受けました。 森氏は,ゲーマーやプログラマー達の普段の生活に興味を払わず,ただ「ゲームを長時間している」とか「モニターの画面を長時間見つめている」ことだけを判断材料にしてデータ分析を行い,さらに,比較対象を痴呆者に限り,何の検証もなく「ゲーム脳以外には痴呆者にしかそのような脳波が観測されない」という前提を作ってしまったため,批判が多く寄せられることになるような本を書き上げてしまったのです。 ここで,データそのものは捏造された訳ではなく,実験方法が不味かった訳でもないのに,それに基づいたはずの議論がなぜそれほどまでにひどかったのかという疑問が出てきます。 それは,いくら精緻なデータを利用しようとも,論を組み立てるのが人間である限り,論の組み立てに誤りのある可能性があり,その誤りがあまりにもひどい場合,論そのものもひどくなってしまうということです。 結局のところ,田母神論文は歴史研究ではなく,ただ単に自衛隊を批判する論者の存在を疎ましく思う気持ちから,恨み辛みを書き散らしただけのものでしかなく,その内容に過剰反応しているマスコミや野党の支持者,果ては政府関係者まで,その頭脳の程が知れようというものです。 さて,歴史に関係することを考えることを「歴史認識」と言ってしまうのなら,これも歴史認識問題の一環なのかも知れません。まあ各事実に関しては少なくとも歴史研究の結果待ちとなる部分があるので,単純に事実が間違っているとは言いにくいのです。それゆえ,「書いてあることに間違いはない」→「論文に間違いはない」という単純な思考に陥り,「論文が間違っていないのに云々」という意見が出てくるのです。 この論文を「完全なもの」として問題視するのなら「現職自衛官が政府見解と異なることを公然と述べ立てた場合,文民統制の立場から政府が統制するのは当然」程度のことしか言えないのですが,それ以前に論文と言える代物かどうか判断しておくべきでしょう。 私はそのような代物とは言えないと思いますし,それに最優秀賞を与え,懸賞金まで出すような会社や審査員の信頼性も問われるべきだと思います。 coffeeは田母神論文に関して「『田母神論文』に文句のある奴は、『田母神論文』のどこがどのように間違っているかを具体的に指摘して説明しろ!」と言っていますが,これに対しては一言で終わりです。 論の組み立て方そのもの すでに述べたように,指摘した事実と展開している議論との間に関連性が見受けられないという間違いなのです。執筆者の思想に踏み込むまでもないことです。 さらにcoffeeは田母神論文を「事実に基づいた立派な論文」だと言い,よりにもよって田母神を「神」と称しました。この程度で「神」だとは,coffeeは何とも大安売りしたものだなと思う程度で,私には何とも噴飯ものとしか思えません。 (田母神氏が航空幕僚長の職にありながらこのような論文を出したことが立派だというのなら,それはそれで権威主義的な様相を呈しているのですがね) 参考 正しい歴史認識、国益重視の外交、核武装の実現:田母神は神!反省の弁なし!・田母神俊雄前空幕長が記者会見・謝罪や反省など全く必要ない・「日本が悪い国だという認識は修正されるべき」・「政府見解に一言も反論できないとなると北朝鮮と同じだ」 http://blogs.yahoo.co.jp/deliciousicecoffee/36818396.html |
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| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
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| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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deliciousicecoffee 2008/11/05 02:15 |
「現職自衛官が政府見解と異なることを公然と述べ立てた場合,文民統制 |
太郎 2008/11/11 18:42 |
文民統制を教条主義に陥り運用を誤ってはいけない。 |
太郎 2008/11/11 20:00 |
>coffee氏 |
Eric Prost 2008/11/11 21:54 |
徹底的とは人数ではありません。更迭という手法がやりすぎだという意味ですので、表現が適切でなかったことを認めます。 |
太郎 2008/11/12 23:54 |
もう5日もたってしまった |
太郎 2008/11/17 13:05 |
> 太郎氏 |
Eric Prost 2008/11/17 22:22 |
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